たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第49回 意思決定支援に重要な5つのポイント(再掲載版)

私たちの仕事は毎日が意思決定支援
2018年4月の診療報酬改定で厚生労働省から「人生の最終段階における医療、ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が公表され、病院、施設、在宅のどの場所でもこのガイドラインに沿ったターミナルケアの実施が求められることになりました。
私たちは、高齢者や末期のがん患者、小児患者等の在宅療養を支援していますが、亡くなる前に、自宅で人工呼吸器を装着するのか、延命治療や胃ろう、気管切開をするのかなど、重要な意思決定をしていきます。まさに毎日が意思決定支援そのものといってもいいでしょう。患者さんの命に関わる大切な決定を、どのように支援しマネジメントできるかが、医療者に問われていると思います。

意志決定決定支援で大切な5つのポイント
私が意思決定支援を行う上で重要だと思っていることは次の5つのポイントです。

①家族だけではなく、本人の意思を最優先する
本人の意思が最優先で、本人が意思表示できない場合、人生観や価値観、本人の支えを知るご家族が「本人が正常に判断できたら何と言うだろうか、どう生きたいと思うだろうか」ということを考えましょう。家族は長生きしてほしくても、その命は本人のものだから、何を望むかに思いを馳せて考えていただきます。「最期に本人が望んでいた通りにしてあげられた」と思える方がご家族も納得できると思います。

②考え得るすべての選択肢を提示する
従来は最期まで治し続ける医療が主体でしたが、現在は、国も「治す医療」から「支える医療」への方針転換を進めています。高齢者の中には、「もう十分生きたし、治療でつらい思いをせず、住み慣れた自宅で食べたいものを食べて楽に死にたい」と考える人も少なくありません。「治療をしない」という選択も1つの権利だと思います。一人一人最善は違うからこそ、あらゆる選択肢を提示し、その方にとっての最善の選択を一緒に探すことが大切だと思います。

③その時点で関係するすべての人と十分に議論する
親族で1番の決定権を持つキーパーソンが意思決定をする場にいなかったり、その場に参加していなかった人が、後になって「私はそんな話は聞いていない」となっては後で問題になります。そこにいる人だけで勝手に決めるのは後悔につながりますので、ご本人に関わる全ての人を巻き込んでいかなければならないと思います。

④決断に迷う当事者に寄り添い、決断は変わっても良いことを伝える
これは①の次に、1番大切だと思っていることです。当事者や家族が大事な命をどうするかという大きな決断をしなければならない時、「迷う」のは当然です。決断は何度変わったっていい。「悩んでいいんですよ」と医療者がしっかりと伝えることです。支援者自身も当事者と一緒に繰り返し迷い、一緒に考えていくのです。人工呼吸器を付けないと言っていた人が、急に呼吸困難になり、やはり付けたいと希望してもいいと思います。エンディングノートで延命しないと宣言していた人が、その時になってやはり延命すると決めてもいいと思います。そんな時、「前に点滴しないって言ったじゃないですか」ではなく、「いいんですよ、揺れ動くのは当然です」と、患者さんの気持ちは何回も何十回も変わってもいいから、一緒に考えるスタンスが大事なのです。患者さんやご家族の揺れる気持ちに寄り添い、「迷っていい」という声かけをしてあげてください。

⑤後でこれで正解だったんだと言ってあげられるプロセスを踏む
患者さんやご家族に寄り添ってその選択を支援し、結果的に自宅で看取る場合も病院で看取る場合もあるでしょう。点滴をする場合も、しない場合もあります。家で看取った患者さんのご家族があとで挨拶に来られ、「悪くなった時に入院した方が良かったのでしょうか?」と聞かれた時に、「その時にみんなで考えて最善の選択をしたのだから、これでよかったんですよ」と声をかけられることが大事です。その人にとって何が正解かはわかりません。それでもみんなで迷って一緒に考えた後に、「これでよかった」と思えるプロセスを踏んでください。つまり、結果よりもプロセス(どれだけ寄り添って支援できるか)が大事だということです。

在宅医療とは、大切な人が亡くなっても納得できる医療でなければならないと考えています。患者さんが亡くなるまでの間、ご家族が決断に迷っても一番の味方となって、寄り添い続ける支援者となって欲しいと思います。

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