たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第48回 人生会議をしよう!

誰でもいつでも、命に関わる大きな病気やケガをする可能性があります。命の危険が迫った状態になると、約70%の方が医療やケアなどについて、自分の意思を伝えたりすることが出来なくなると言われています。自らが希望する医療やケアを受けるためには、大切にしていることや望んでいること、どこでどのような医療やケアを望むかを自分自身で前もって考え、周囲の信頼する人たちと話し合い、共有することが重要です。
これらの希望について医療・ケアチーム等と繰り返し話し合い共有する取組みを、平成30年11月30日に厚生労働省は「人生会議」と名付けました。

「2025年問題」について皆さんは聞いたことがあるでしょうか?今、日本で一番人口の多い世代である団塊の世代の方たちが後期高齢者(75歳以上)となるのが、2025年以降です。その時代は日本の歴史上、最も死亡者が多くなる時代で、「多死社会」ともいわれています。
治すことを追求して発展してきた日本の医療ですが、80歳以上の高齢者の死亡数が増えていく「多死社会」を迎え、皆が「亡くなるまで治し続ける最期で良いのか」という命題が突きつけられています。
日本の病院での看取り率は今でも約7割と圧倒的世界一です。今、日本では医療者も国民も死に向き合いきれていないと言われています。最期まで治療を続けると、食べられなくなっても点滴を続け、吸引が必要になり、絶食で亡くなっていきます。反対に医療を最小限にして点滴をせずにいると、吸引は必要なく、最期まで食べるという選択肢も出てきて、住み慣れた場所へ帰れる可能性も高くなります。
死に向き合えば自分がどんな最期を迎えたいかを考えることができます。
逝き方を考えることは、生き方を考えること。人は世の中に生を受けたらいつか必ず亡くなります。いつか亡くなるまでどうよりよく生きるか、それが人生だと私は思うのです。一度しかない人生をどう生きるか、そして、いつか亡くなる時に本人もご家族も「ああいい人生だった」と思える納得できる最期を迎えることができればいいと思います。

病気や治療の話というと、「早く決めなければ」と思いがちですが、この「人生会議」で大切なことは「決めなくてもいいからいっぱい話をしよう」ということなのです。どこで死にたいか、病気になった時どうしたいかなどの暗い話ばかりしなくてもいい。本人が何が好きか、何を大切にしているのか、笑顔でいろんな話をして、自分の思っていることを大切な人とシェアする。普段からいろんな話をしておくことで、予期しないことや本人すら自分らしさを見失いそうな時に、みんなで納得しながら選択していくことができる。
自分が支えられるときもあれば、支える立場になる時もあります。元気なうちから決めなくてもいいから、元気なうちからいっぱい話をしていきましょう!それが「人生会議」です。

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