たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第47回 食べられないことを見守る ~穏やかに最期を迎えようとする時、栄養士としてできること~

「家が一番」と自宅での看取りを望んだナツキさん(90歳)は、愛媛ののどかなみかん農家に暮らし、家族と愛犬に囲まれながら、穏やかに最期を迎えようとしていました。認知機能の低下や心不全が進行する中、ご家族は無理な医療介入を望まず、できる範囲で自然な食支援を希望されました。

訪問栄養指導では、患者の食べたいものを叶える「Kanau(かなう)プロジェクト」の一環として、おはぎを用意し、喜ばれる場面もありました。ご家族が負担を感じずに支えられるよう、管理栄養士が食の工夫を共有することは大切な役割です。 2024年度の報酬改定で、管理栄養士の訪問機会が増え、終末期の食支援がさらに重視されるようになりました。「食べること」は「生きること」と密接に関わり、家族にとって大切な希望の象徴でもあります。だからこそ、誤嚥などのリスクも踏まえ、多職種が連携して慎重に支援していく必要があります。

一方、終末期では食べられなくなることが避けられない現実でもあり、「何もできない」と感じる場面に葛藤する栄養士も多くいます。そんな中、ある研修会で「何もしない栄養指導」という考え方が共有されました。これは支援を放棄するのではなく、たとえ何も提供できなくても、そばにいて見守る姿勢こそが重要だという意味です。 ナツキさんの終末期にも、管理栄養士の訪問を一度は遠慮されたご家族が「それならお願いします」と答えた背景には、支えてくれる存在への信頼がありました。結局、訪問前にナツキさんは穏やかに旅立たれましたが、栄養士は「見守り続けることも支援である」と実感したと語っています。 「何かをしなければ」という焦りではなく、「そばにいる」ことの意味を見つめ直すことで、食支援のあり方もまた深まっていくのです。見守る姿勢が、患者さんとご家族にとって静かな安心をもたらすのかもしれません。

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