著者:永井康徳
私が考える「食べられるか、食べられないかの判断基準」をどうすれば病院の先生方に伝えられるのだろうか・・・と悩んだ末に「患者が食べられるかどうかを見極めるフローチャート」というものを作ってみようと思い立ちました。
目の前に食べられない患者さんがいたら、まず、次の3つを確認してください。
① 食べる意欲はありますか?
② 喀痰吸引は必要ですか?
③ 輸液や経鼻チューブ、胃ろうなどの経管栄養を行なっていますか?
①「食べる意欲がある」&②「喀痰吸引の必要がない」人は、おそらく食べられます。経口摂取を積極的に進めてください。①「食べる意欲がある」&②「喀痰吸引が必要」な人、または、①「食べる意欲がない」&②「喀痰吸引が必要」な人は、輸液や注入量を減量するか、可能であれば一旦中止してみてください。食べる意欲が出てくる可能性があり、吸引が不要になれば、経口摂取もできると思われます。当院の食支援データでは、1日1,000ml以上の輸液や注入でも、食欲がなくなることがわかっています。
輸液量や注入量が多いと食欲がなくなるだけでなく、身体で処理できない水分が痰となります。それらを減らすことで痰が減り、吸引の必要もなくなるでしょう。
①「食べる意欲がない」&②「喀痰吸引が不要」な人や、②「喀痰吸引は必要」&③「輸液や経管栄養を行なっていない」人は、経口摂取の可能性は低いと思われます。逆に言えば、この条件に当てはまらない人は『食べられる』ということなのです。
このフローチャートは、当院が行ってきた食支援のデータを根拠にしています。
当院は開業から15年間は在宅医療専門クリニックとして運営してきましたが、平成28年に入院病床をつくり有床診療所になりました。そして、急性期病院から食支援目的で患者を紹介されるようになったのです。
ある急性期病院から、平成28年7月から平成31年4月の間に紹介された患者29人について調査したところ、食支援目的は21人(72%)で、残り8人(28%)はお看取りのための転院という割合でした。末期癌や神経難病の方もいましたが、8割は誤嚥性肺炎後の廃用症候群です。当院に転院するまでは全員、絶食で人工栄養を受けていて、7割の人に喀痰吸引が必要でした。そして身体拘束を受けている人も多数いました。
食支援目的で入院された21名の患者の平均年齢は87.0歳、その人たちが当院に転院するまでの輸液量や注入量は平均1,028mlでした。それが、当院に入院後、輸液や注入量を大幅に減らすか中止すると、8割もの人が何らかの形で経口摂取が可能になり、なんと6割の人は経口でほぼ全量摂取できるようになったのです。なお、食支援で入院した人のうち38%は最終的に病床看取りとなりましたが、62%の人は自宅に戻ったり、施設入所となり退院しています。
高齢者が誤嚥性肺炎になった場合、再発を恐れて主治医は絶食指示を出しがちです。絶食指示を出し、点滴や経管栄養を続けて、喀痰吸引をする・・・これは最期の瞬間まで治し続けようとする医療です。しかし、食支援は患者の死に向き合い、治療を最低限に絞ることがスタートラインなのです。人工的な栄養補給を中止して、患者に食べる意欲が戻ったら、多職種チームで患者が食べたいものを食べられるように支援していけば、その人は最期の日まで好きなものを食べられます。
多死社会を迎えるにあたり、治し続けて最期を迎える医療だけでなく、医療従事者も患者・家族も死に向き合い、患者自身がどのような最期を迎えたいと思っているのかということに思いを馳せる医療が普及されることを祈るばかりです。