たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第18回 理念の浸透

たんぽぽクリニックには現在8人の常勤医がいますが、松山市本院の当番に加えて曜日交代で本院から 70 km 離れたへき地にある「たんぽぽ俵津診療所」に 早朝から出かけて、泊まりがけでそこで勤務しています。
「8人も常勤医がいると、治療方針の違いなどで他の医師の担当患者さんを診られないという問題は起きないのですか?」と他のクリニックの先生からよく質問を受けます。
たんぽぽ俵津診療所では、外来診療も、月曜日の担当はA医師、火曜はB医師と曜日で医師が変わりますが、連日受診する患者さんにとっては昨日と今日の医師が違う場合、不安な気持ちになるはずです。その不安を解消するためにも、朝のミーティングでしっかりと患者さんの情報を共有し、関わる方針を話し合っているのです。 前日の外来診療で治療上の相談や申し送りが必要な患者さんがいた場合、前日の担当医が Web 会議を通じて本日の担当医に患者さんの様子を伝え、今後の方針についても協議して決定します。治療方針が違う時には激しく議論することもあります。俵津診療所ができた当初は、この方針の統一がなかなかスムーズにいかないものでした。患者さんを思う気持ちは同じでも、それぞれに専門分野も違うためか、こだわる部分が異なっていたからかもしれません。

それはたんぽぽクリニック本院の在宅患者さんの場合も同じでしたが、朝のミーティングを話し合いを積み重ねるうちに、次第に理念が浸透されていきました。たんぽぽクリニックでは、予後が厳しい患者さんは「看取り体制一覧」という表にカテゴリー分けする仕組みがあります。「要注意」から始まり、「月単位」、「週単位」、「日単位」という予後の目安が表示がされます。これは、患者さんに残された時間(予後)を意識して、患者さんやご家族が後悔のないように手厚いケアをするよう、職員への注意喚起のために作っているのです。このリストにあがってきた患者さんに関しては、予後の告知や現在の輸液量、訪問頻度、ご家族へ看取りの心構えをしていただくための冊子 「看取りのパンフレット」をお渡ししたかどうか……といったことを確認します。 限られた時間にどれくらい自分たちが関わるかを常に意識し、患者さんやご家族にこんなに手厚く関わってもらえるなら自宅で頑張ってみようと思えるようにしたいからです。
また、「患者さんに十分な告知がされていないため、まだ医療麻薬の使用ができず、痛みが続いている」といったシビアな問題が報告されることも多々あります。その時は、医師を中心に多職種を交えて、「なぜ告知がされないのか」「どのような言葉を使えば患者さんに伝えられ、限られた命に向き合ってもらえるのか」といったことが話し合われます。そして、今後の方針についても議論が重ねられるのです。

開院以来、朝のミーティングを20 年近く積み重ね、議論の末の治療方針が臨床の場で何をもたらしたか……、安らかな旅立ちとなったのか……、残された家族が大切な人の死に納得できたのか……何百、何千の場面を経験してきました。多くの経験から学び、新規患者さんや既存患者さんが急変した際には、どのように対応したらよいのか、大きな方向性は定まってきたように思います。大きな方向性の中で、個々の患者さんにとっての最善は何かという深い議論がなされるようになってきたのです。
このミーティングに参加する誰もが、話し合いから方針決定までの過程を経験していきます。毎日参加していれば、医療職以外のスタッフも「このクリニックでは、こういう考え方で患者さんを支え、看ていくのだ」ということが自然と染み込んでいくのでしょう。それを象徴するように、入院患者さんの思い出の料理を作って喜んでもらおうという企画が、調理師から出てきたこともありました。
このミーティングは、地域の多職種とも共同して開かれつつあります。連携している別法人の調剤薬局なども参加してくれるようになりました。
このように、ミーティングは単なる情報共有の場ではなく、「情報の共有と方針の統一」に必要となる「言葉の奥にある理念」を分かち合っているのです。 私が大切にしているミーティングでの8つのポイントを紹介します。

①患者本位のマネージメントを行っているか?
②家族だけでなく、本人の意思は尊重されているか?
③患者が制度面で不利益になっていないか?
④患者の不安は解消できているか?
⑤患者に満足のいく医療を提供できているか?「楽なように、やりたいように、後悔しないように」
⑥情報の共有と方針の統一はできているか?
⑦多職種の専門性を活用した連携はできているか?
⑧避けられない死に向き合っているか?

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