たんぽぽコラム

在宅医療の質を高める

著者:永井康徳

  

第3回 多職種連携に必要なこと

皆さんのクリニックや事業所では、ミーティングを行っていますか?
コロナ禍では、Zoom等のオンラインも活用しているところが多いと思います。しかし、ミーティングはただ行えばいいというものではありません。毎日の貴重な時間を使うのですから、情報共有するだけの場所で終わらないように、様々なチェック機能を働かせ、自分たちがどのような方向に向かおうとしているのかを確認しましょう。そして、異なる意見があるのは当然なので、その中でお互いがとことん議論して方針を統一していくことが大切になるのです。

私たちの法人では、毎朝8時 30 分から9時までの30分間、朝の全体ミーティングを開催します。このミーティングには電話当番の事務1名と、病床で患者さんを見守るスタッフ以外は、医師・看護師などの医療スタッフからケアマネジャー、管理栄養士、事務職、 鍼灸マッサージ師、調理師に至るまですべての職種が集まります。たんぽぽクリニック本院から 70km 離れた過疎地の町にある「たんぽぽ俵津診療所」とは、Web 会議システムでミーティングを中継しています。この朝の全体ミーティングは医療法人ゆうの森の真髄です。情報の共有と方針の統一は、まさにこの場で行われるのです。

一人の患者さんに医師や看護師をはじめとする多くの専門職が関わることは、病院であろうと在宅医療であろうと珍しいことではありません。多職種連携とは、分野の違う専門職が一つの " チーム " となって患者さんに関わることだと私は考えています。そのためには、やはりチーム内の「情報の共有と方針の統一」が不可欠なのです。 情報の共有方法については、IT ツールもあれば電話やFAXといった手段もあります。たんぽぽクリニックでは、法人内は IT ツールを用いた情報共有システムを構築していますが、法人外の事業所とは電話やFAX、メールが主な手段です。また、患者さんの容態が急変し、サービスの変更や福祉用具の追加が必要になる時は、電話でケアマネジャーや訪問看護師に相談して連携をはかっています。

たとえ、便利な IT ツールで瞬時に情報共有できなくても、 多職種カンファレンスを頻繁に開催できないとしても、「多職種連携には情報の共有と方針の統一が必要なのだ」と理解していれば、その手段は何でもよいのです。 とはいえ、患者さんのどんな情報を共有すればよいのか、どのようにして方針を統一していくのかには、ちょっとしたコツがあります。ここでは、たんぽぽクリニックで実践しているノウハウをご紹介します。

今の時代は、スマホなどの IT ツールで情報共有し、話し合うことが可能です。便利な世の中ではありますが、「情報を共有したのに全然伝わっていない」とか、「統一したはずの方針の認識がずれていてトラブルになった」ということはないでしょうか?

以前、たんぽぽクリニックであった事例です。当院では基本方針として、終末期に点滴を最小限にすることにしています。絶食⇒大量の点滴⇒むくみや痰などの苦しい症状という、「終末期の点滴による悪循環」により、患者さん本人が望んでいた穏やかな最期が迎えられなくなるからです。 このことを患者さんやご家族に話し、納得してもらい、多職種間でも方針を統一したはずなのに、他法人の訪問看護ステーショ ンから「食べられないのに、なぜ点滴をしないのですか?」 と当院を非難するような連絡がきたことがありました。
「情報の共有と方針の統一」。これはチームであるなら当たり前のことなので、理解も得られやすく実行も容易だと思われることでしょう。しかし、「言葉だけのやりとり」は、うまく機能しないものです。「情報の共有と方針の統一」をしっかりと機能させるには、言葉の奥にある思いや方針、いわゆる理念というものを共有する必要があることを何度も痛感してきました。そのため、医療法人ゆうの森では、朝の全体ミーティングを通して「情報の共有と方針の統一」だけでなく、「理念を共有し浸透させること」を目指してきたのです。

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