著者:永井康徳
「老々介護でも在宅医療は可能ですか?」とよく聞かれます。老々介護で在宅医療を開始する時に、私が高齢のご家族に必ずお伝えするのは、「介護する方は、何もしなくていいんですよ」という言葉です。在宅医療に携わる人たちが、一人暮らしでも家で看取ることが可能な地域を目指して患者さんの支援をすれば、どんな病気や障がいがあっても家で暮らし続け、看取ることができると私は思います。
では、具体的にどうすれば一人暮らしの人を看取れるのでしょうか?さまざまな専門職と協働し、サービスを提供するのはもちろんのことですが、必ず必要となる重要な三つのポイントがあります。
一つ目は、本人も家族も自宅での看取りを望んでいることです。望んでいなければ、病院や施設を検討されることになるでしょう。
二つ目は、亡くなる最後まで点滴や人工栄養を続けないことです。これらを最後まで続けると、必ずと言っていいほど、吸引が必要になります。そうすると本人がしんどくなるばかりか、吸引ができる人が常にそばにいなければならず、一人暮らしではなくなってしまいます。最期は人工栄養などをせずに、食べたいものを食べられるだけ食べ、穏やかに過ごすことができる自然な看取りを目指すことです。
三つ目は、亡くなる瞬間を誰かがみていなくていいということを理解しておくことです。私はこのことが最も重要だと思っています。多くの人が、息を引き取る瞬間を誰かが見届けなければならない思っていますが、一番大切ことは本人が楽に逝けることであり、必ずしも亡くなる瞬間をずっとそばでみていることではないと思うのです。家族は片時も離れずに見守り、息を引き取る瞬間を見届けようと頑張ってしまいます。このために、自宅での看取りはできないと諦める家族もいるくらいです。
「亡くなる瞬間をみていなくてもいい」という認識が一般的になれば、日本の看取りの文化も変わっていくことでしょう。一人暮らしの看取りにおいても、必要な支援にサービスを導入し、例えばヘルパーが訪問した時に患者さんが亡くなっていたとしても、慌てずに対処できるようになると思います。
多死社会を迎え、これから一人暮らしの人の看取りは増えていくと思います。一人暮らしでの看取りを望む方には、この三つのポイントをあらかじめ本人にお伝えし、亡くなる瞬間がどうなるのかも、イメージできるように私はお話しします。どのような最期を迎えたいのか、死に向き合えば、本人の望む最期が可能になるのです。
一人暮らしの方でもおうちで看取ることができる地域を目指して