著者:永井康徳
2000年に在宅医療専門の「たんぽぽクリニック」を開業して以来、たとえ私がいなくても 、24時間365日の体制が維持できるような仕組みづくりを目指してきました。医療従事者が疲弊しない、複数体制での当番システムです。このようなシステムを活用して、2012年から廃止の決まったへき地診療所を引き受けて、都会とへき地とで共同運用する循環型の地域医療を運営してきました。(関連記事:俵津プロジェクト)
2016年にこのへき地診療所再生のプロジェクトを評価され、「第一回日本サービス大賞地方創生大臣賞」を受賞させていただきました。この賞の受賞をきっかけに私は厚生労働省医政局の 医師需給分科会に参加することとなり、医学部の定員を設定したり、医療の地域偏在や診療科偏在の解決方法を検討する国の重要な会議に関わるようになりました。
当初、厚生労働省では、医療の地域偏在解決のためにへき地に医師を強制配置する方針でした。「医師の養成には多額の国費が投入されているのだから、医師を強制的に医師少数地域へ派遣しても問題ないだろう」というのが、強制配置推進派の意見でした。
しかし、全国の医師10万人に行ったアンケートの結果、約半数の医師が条件次第では医師少数地域への勤務も可能であるとの回答が得られ、潮目が変わりました。
会議の中で当院の「たんぽぽ俵津診療所」でのへき地医療の取り組みを報告しました。すると多くの構成委員たちが望まない医師を無理に医師少数地域に赴任させるのは、医師にとっても住民にとっても幸せでないことに気づいたのです。
その後、規制改革や権限委譲も行い、医師少数地域を志願する医師が赴任できるシステムを整備し、その医師や派遣する医療機関を評価しようという動きに変わり、2018(平成30)年7月には、この方向で医療法医師法改正が行われました。
地域偏在を、ただ医療従事者の数だけで解決するのではなく、仕組みやシステムで根本から解決するこの方向性はとても期待できると私は思っています。特に地方の医療機関は、医療従事者不足で疲弊していると言われており、それに加えて住民の高齢化も進んでいます。平均在院日数の短い急性期病院で医療を受けた後、患者さんは早期の退院を余儀なくされますが、高齢者は病気や老化とともに徐々に通院困難となるのです。
医療機関の機能分化に関わる地域のこうした課題の解決には、在宅医療が大きく貢献すると私は考えています。急性期の医療機関や介護関係機関等と連携し、どんな状態でも在宅療養ができるようにその人の暮らしを支え、住み慣れた場所での看取りも行うのです。そうすると患者さんやご家族の安心感と満足度は高まるでしょう。自宅での看取りが増え、社会的入院等を回避できることで、病院の医療従事者は本来の「治療」に専念でき、医師等のやりがいも向上することでしょう。 地域に在宅医療の実力が周知され発展していくことは、地域医療の疲弊や医療偏在を解決する手だてになるのではないかと思います。
今後日本社会の人口減少は避けられませんが、これまでと同じ医療を提供していてよいのでしょうか? 多くの地域で進行する人口減少と向き合い、医療のかたちを変革する取り組みが必要となってきます。 新たなアイデアを導入し、どれだけ質を維持しながら医療を確保していくかを考えていかなければなりません。同時に、住民の意識改革も重要です。人口が減少している地域で医療を受ける権利ばかりを主張しても難しいでしょう。亡くなるまで治し続けて最期を迎えるのではなく、死に向き合いつつ、自分はどんな最期を迎えたいと思っているのかを考え、最後は医療を最小限にする選択肢も大切になってくるでしょう。