たんぽぽコラム

在宅クリニック運営のノウハウ

著者:永井康徳

  

第17回 在宅医療専門クリニック開業成功のための5ヶ条①

私は、介護保険制度が施行された2000年に、愛媛県で初となる外来を行わない在宅医療専門の診療所、たんぽぽクリニックを開業しました。開業して24年、この間に当院が支援して開業した医師は12名に及びます。しかし、経営が軌道に乗り、開業当初の理想通りに事業を拡大している人もいれば、実現できていない人もいます。その違い、原因はどこにあるのでしょう?
「もし今、私が今までの経験を活かして、ゼロから在宅医療専門クリニックを開業するなら、何に注力するだろうか?」という視点で原因を探ってみたところ、経営が軌道に乗らず、理想通りにクリニック運営ができていない人たちに共通した5つの問題点が見えてきました。そこで、この5つの問題点とその解決策を「在宅医療専門クリニック開業成功のための5箇条」として紹介したいと思います。

問題点1 開業したいクリニックのビジョンがあいまい
開業準備を進める前に、まず決めておきたいのが、次の2つのビジョンです。

① 地域の中で担いたい役割
② 1人医師体制のクリニックにするのか、複数医師体制のクリニックにするのか

理由は、これらによって事業運営や経営方針が大きく異なるからです。
1人医師体制と複数医師体制は、一概にどちらの体制が良いとは言えず、開業医それぞれの考えによると思います。しかし、開業時に方針を決めずに、なんとなく患者が増えたから医師を追加採用しようとする と、めざすべき自院の姿がはっきりしないので、なかなか判断ができず、行き詰まりやすいのです。そのため、開業時に自院のスタイルと将来のビジョンを明確にすることが大切です。

私は今開業する場合でも、迷わず複数医師体制をめざします。1人では 24 時間対応に限界がある上、私の理念である「自分がいなくなっても継続できる在宅医療を地域に提供すること」の実現が難しいからです。
とはいえ、1人医師体制、複数医師体制のどちらでも、開業当初は1人で診療を始めることは共通しています。患者がまだ少ない開業当初から複数の医師を雇用すると、人件費ばかりかさみ、採算が取れないからです。1人医師体制の場合、一定の患者数を確保できる見通しが立てば、地域の他の医療機関と連携して、自院ではどうしても診療できないときの支援体制を構築していくことになるでしょう。これに対して、複数医師体制では、地域の在宅医療のニーズを見定めつつ、患者の増加に合わせて医師を増員し、疲弊しない24時間体制をめざすことになります。

〈在宅クリニックの開業前に取り組むべきこと〉

1) 将来のビジョンと方針を設定する
1人医師体制か複数医師体制か、地域でどのような役割を担いたいか、どのようなクリニッ クにするかなど、将来を見据えたクリニックの方針を決めます。
2) 近隣地域の需要を把握する
人口動態や、開業予定地周辺の医療提供体制の調査に加え、連携先になりそうな近隣の病院 や診療所、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、地域包括支援センター等をリスト化 し、移動距離や手段も確認します。調査を進めることで、地域で自院が担うべき役割が見えてきます。

第1箇条
地域で担いたい役割、1人医師体制なのか、複数医師体制なのかなど、クリニックのビジョンを明確にすることから始めよう。

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