著者:永井康徳
人材採用と同じくらいに重要なのが、採用した職員の教育だと思います。即戦力を求めて経験者を採用したからには、1日でも早く現場に出てもらおうと考えてしまうものですが、最初の数週間は風土や他の職員に馴染めるように工夫をしたほうがいいと思います。遠回りに見えても、入職者の今後の成長や職場への定着を考えると手間と時間をかけるだけのことがあるからです。
私たちの法人では、在宅医療における多職種連携を重視していることもあり、入職者研修は多職種連携の第一歩だと考えています。研修プログラムも多職種の業務と役割を理解することを重視し、講義と訪問同行で全18プログラムを設定しています。午前・午後にそれぞれ1プログラムずつ組んでも2週間ほどかかりますが、講師を務める職員の都合もあるため、1ヶ月程度を研修期間と見込んでいます。
当法人の入職者研修プログラムは、次の3テーマに分類しています。
①法人理念、法人の沿革への理解を深める
私が行う理念研修と、専務理事が行う法人の歴史や概要の講義がこれにあたります。研修の皮切りの講義を専務理事が行い、締めが私です。
採用担当者でもある専務理事が法人の歴史や概要だけでなく、研修の意図や心構えについても話すことで、新入職員は採用担当者の手から離れ、新しい職場での生活がスタートしたとの認識が生まれます。そして、ほぼすべての研修を終えた頃に私が理念研修を行い、理念への理解を深めることを目指すのです。新入職員には、理念に共感した上で現場に出てもらいたいと願っています。
②在宅医療の制度やパソコン操作など実務講座
意外に見過ごされがちなのが、これらの実務知識です。「現場で学んで」と放置していると、あいまいな理解や誤解をして、大きなミスにつながりかねません。また、周囲が使う用語やパソコン操作がわからないままでいると疎外感や無力感の原因にもなります。しっかりと時間を取って、最初にこれらの実務知識を教えておくことが大切だと思います。
当法人では入職者研修で、現場で必要な基本的な在宅医療の制度を事務課長が教え、さらに高度な知識は毎年行う全国在宅医療テストで学べるようにしています。また、業務管理のほとんどをkintoneというサイボウズ社のITツールを使って行っているので、操作方法を担当者から1時間かけてマンツーマンで教えるように研修プログラムを組んでいます。
③多職種の業務理解と現場同行
訪問同行の研修は、訪問診療・訪問看護・訪問リハビリ・訪問介護・訪問鍼灸マッサージの5部門で行い、さらには遠隔地の診療所にも必ず訪問して、現地の職員とも交流するようにしています。講義では、各部門の部門長が仕事内容や役割、診療・介護報酬について説明します。講義・同行は共に「こんな仕事をしていたとは知らなかった、勉強になった」と、どの専門職からも好評です。
研修中に他部門の所属長と顔見知りになり、業務内容を知っておくと、現場に出たときに多職種と協働しやすいという大きなメリットとなります。
当法人も職員が100人を超えるようになって、新入職員と既存職員が話す機会が簡単には持てなくなリました。そのため、研修中に直接交流しない既存職員にも新入職員の人柄や研修中の様子が伝わるように工夫しています。それが、研修の様子を全職員で共有して、応援する仕組みとなります。
研修中、新入職員は講義や訪問同行後に、必ずkintone上のアプリケーションに学んだことや感想を書き、研修担当者がフィードバックする決まりになっています。そのやりとりが職員全員に通知され、コメントや「いいね!」を入れることができます。この仕組みを通して、直接話す機会がない職員も新入職員を知るきっかけとなるし、新入職員もコメントや「いいね!」を見て、多くの職員に歓迎されていると感じられるようになるのです。
良い人材が確保できたなら尚更のこと、すぐさま現場に出して苦労させるのではなく、組織全体で温かく迎え、育てていきたいものだと思います。
今日の3つのポイントです。
①新入職員研修は人材育成のスタートラインです。中途採用であっても、時間も手間もかけましょう。
②他部署の業務や役割を理解するプログラムを作り、部署間の連携強化につなげましょう。
③研修期間中の新入職員を応援する仕組みを作って、組織全体で歓迎ムードを作りましょう。