著者:永井康徳
皆さんのクリニックでは、訪問診療に同行者はついていますか?診療の同行者を「荷物持ちや車の運転手」のように思っていませんか?都会の訪問診療専門クリニックでは、医師のみが一人で訪問しているクリニックもあれば、PA(フィジシャン・アシスタント)と呼ばれる専門の同行者を養成して一緒に訪問する所もあるようです。
「訪問診療の同行者をどうするのか?」というのは、実は事業ビジョンに直結する重要な課題です。一人の医師が、他事業所や他職種の力を借りながら自分のできる範囲の在宅医療を行うのか、複数医師体制で365日24時間しっかり対応する在宅医療を目指すのかで、診療同行者の有無や職種は異なってきます。前者の場合、同行者なしで単独で訪問診療する医師も多いのですが、後者を目指すなら、同行者が担う役割を深く把握し、その役割を担える職種や採用基準まで考えておいた方がいいでしょう。
当院では開業以来、一人医師だった時代も含めて、診療同行者は看護師です。私は、自分一人で24時間対応を何年も続けるのは不可能だと考えていたので、当番ができる看護師を採用して診療に同行してもらい、患家からの電話に最初に対応するファーストコールの対応を任せてきました。事務員による同行もトライしたことがありましたが、当院は重症患者が多く、診療時に看護師の医療補助を必要とするケースが多いため、最終的に同行者は看護師となりました。当院の同行看護師には、主に5つの役割があります。
<訪問診療に同行する看護師の5つの役割>
1. 診療の補助
気管カニューレ、尿バルーンの交換などの医療処置時に看護師の補助があれば、安全かつ効率的に行えます。
医師が家族に対して病状や予後などのシビアな話をする際に、看護師が患者さんに対応して気持ちを和らげることもできます。
事務処理は看護師にもできますが、医療処置は事務員ではできないことからも、同行者は看護師が望ましいと考えています。
2. 診療の効率化
医師が患者さんやご家族と話している時間に、看護師がバイタルを確認し患家用の申し送りノートへ記入を行うなど、医師・看護師がそれぞれにタスクを分担することで効率的に診療時間を使うことができます。
3. 情報の共有
当院では、一人の患者さんに対して医師・看護師がそれぞれカルテに患者情報を記入しています。看護師視点の患者情報がカルテに残ることで、病状や医療処置だけでなく、患者さんやご家族の情報、気持ちの揺れなども記録されて情報に厚みが出ます。意思決定支援の際にも活かすことができます。
4. 患者マネージメント
患者さんの状態が変わって、医療・介護サービス等の変更が必要になった際に、患者さんの現状を理解した同行看護師がケアマネジャーへの介護サービスの変更や介護用品の手配の連絡、訪問看護師への病状報告や医療処置変更の依頼などを行います。
5. 医療の質の維持(当番体制の維持と診療のチェック)
主治医以外の医師の訪問、主治医の変更時などに、患者をよく知る看護師が同行することで従来の診療内容と相違がないか確認できます。
看護師がファーストコールを担当し、医師の判断が必要な場合や往診の際は看護師から当番医師に連絡、往診時には看護師も同行しています。また、当番を看護師・医師共にそれぞれ4人以上で担当できるよう人員配置して疲弊を防ぎ、24時間体制の維持、医療の質の担保を図っています。
「訪問診療の同行者をどうするか?」は、在宅医療の肝である24時間対応や在宅医療の質にも影響する問題だからこそ、まずは自院の事業ビジョンを明確にし、同行者の有無や職種を考えてみましょう。