著者:永井康徳
『たんぽぽ先生の在宅医療パターンブック』出版記念として、パターン7「延命治療をやめたいと家族に言われた場合」をご紹介します。
在宅の現場で、本当に重く、避けて通れないテーマです。
【はじめに】
「延命治療」とは、病気を治すためではなく、延命を目的とした医療のこと。人工呼吸器や、胃瘻などの人工栄養がそれにあたります。
本人が元気なうちに「延命治療はしない」と言えていれば、私たちはその意思を尊重できます。でも、今まさに延命治療を受けていて、自分では意思を表明できない患者さんのご家族から「延命治療をやめてほしい」と言われたら――私たちはどうすべきでしょうか。
【ケース:スミコさん】
スミコさんは71歳。2カ月前に脳出血で倒れ、一命は取り留めましたが、気管カニューレをつけ、2時間ごとの吸引が必要で、栄養は経鼻胃管チューブ、寝たきりで意思表示はできない状態でした。
長女さんから「延命治療をやめ、自宅で自然に看取りたい」という相談がありました。
こういうとき、私が必ず確認することが2つあります。一つは、本人も本当に中止を望んでいるのか。もう一つは、介護放棄や経済的な理由など、ご家族の都合で希望している可能性はないか。どちらも簡単には分かりません。時間をかけて、本人の人となりやご家族の思いを理解していきます。
【本人を知る/推定意思】
スミコさんは、地元で評判の食堂を切り盛りした、意思のはっきりした方でした。実のお父さんが胃瘻で寝たきりになった姿を見て、「かわいそう。自分はそこまでして生きていたくない」と話していたそうです。
延命を望んでいなかったのに、人工呼吸器で救命された。それが今の状態でした。本人が今、話せたら何と言うか――この「推定意思」が、大切な手がかりになります。
【ガイドラインと5カ月の歩み】
私たちは、厚生労働省のガイドラインを指針にしています。本人の意思が確認できないスミコさんは、「家族が本人の意思を推定できる」場合にあたり、推定意思を尊重して本人にとって最善の方針をとります。大事なのは、心身の状態に応じて意思は変化しうるので、繰り返し話し合うこと。
スミコさんとは、亡くなるまでの5カ月間、何度も人生会議を重ねました。注入量を減らすと状態が安定し、意識も改善。退院後も状態を見ながら方針を見直していきました。
途中、チューブの自己抜去が続き、生命維持のためにミトンをつけました。でも私たちは立ち止まったのです。「これは、スミコさんの意思に反していないか」と。夫の死に涙したこと、指輪を外さないこと――そこに意思を感じ、元気な頃の言葉を皆でもう一度よく考え、ついに気管カニューレも経鼻胃管も外す決断をしました。17日後、スミコさんは娘さんやお孫さんに見守られ、穏やかに旅立たれました。
【一緒に悩む過程こそ】
ご家族は最初、「本人の意思どおり、すぐにでも中止を」と話していました。でも、もしその通りにしていたら、看取りのあとのあの清々しい表情でいられたでしょうか。
本人の意思に反すれば、家族は後悔します。けれど、十分な過程を経ずに中止しても、「本当にこれでよかったのか」と後悔しうるのです。悩みに悩む過程にこそ、意思決定支援がある。私はこのケースで、改めてそう感じました。
【3つのポイント】
このパターンで大切なことは3つ。
1.家族の希望だけでなく、本当に本人の意思かを確認すること。
2.家族の都合の可能性を、多職種チームで時間をかけて確認すること。
3.ご家族が「迷ったけれど、これでよかった」と納得できるよう、迷いながら意思決定のプロセスを踏むこと。
【終わりに】
その大切なヒントを、たくさんのパターンとしてまとめたのが『たんぽぽ先生の在宅医療パターンブック』です。ぜひお手に取ってみてください。