著者:永井康徳
『たんぽぽ先生の在宅医療パターンブック』出版記念、パターン5「胃瘻をするかどうか迷っている場合」をご紹介します。
【胃瘻大国】
胃瘻とは、口から食べられない方に、お腹から胃へ直接栄養を入れる方法です。日本では新たに胃瘻をつくる方が年間およそ20万人、胃瘻栄養を続けている方は40万人以上。世界一の「胃瘻大国」と言われています。
近ごろは「胃瘻=延命治療」という見方も広がり、選ばない方も増えてきました。私は、胃瘻を否定しているわけではありません。大切なのは、「する」も「しない」も含めて、すべての選択肢をきちんと示し、ご家族と一緒に悩みながら考えていくことです。
【データで見る】
データもお伝えします。胃瘻をつくった後の生存率は、1カ月で93.7%、1年で62.7%、5年では19.5%。平均すると約1.69年、比較的長く療養できます。ただ、その後ご自宅に戻れた方は17.2%、口から食べられる状態に戻った方は4.2%と、いずれも低いのが実情です。胃瘻をしてどのような療養になるのか、ご本人やご家族がそれに満足できるのか――そこまで一緒に考えたいのです。
【誰が決めるのか】
「もし自分が食べられなくなったら、胃瘻を希望しますか」と聞くと、多くの方が「したくない」と答えます。でも「ご家族には?」と問われると、言葉に詰まる。人の生き方、死に方を、他の誰かが判断するのは、それほど重く、難しいことです。
そして実際には、食べられなくなったとき、ご本人は意思表示ができないことが多いのです。決めているのはご家族と医療者で、ご本人の意思が入っていないことも少なくありません。
【3つのケース】
本書では3つのケースを紹介しています。
テツオさんは、脳梗塞をくり返し、食べられなくなった方。ご家族は「本人は食べるのが好きだった。栄養を注入してまで生きたいとは思わないはず」と考え、胃瘻はせず、自然な看取りを選ばれました。最期は枯れるように穏やかに。「思っていた通りの最期でした」と。
タマキさんは、娘さんがずっと迷われたケース。一度は胃瘻を考えましたが、「本人なら、鼻の管を抜いて口から食べ、自然に逝きたいと言うはず」と考え直されました。私たちは「正解はありません。一緒に悩んで、最も後悔のない選択を探しましょう」と寄り添い続けました。
ミツコさんは、娘さんが「点滴だけは続けたい」と。でも、今の点滴はかえってご本人を苦しめていました。「点滴に効果はなく、今はお母さん自身の力で生きておられるんですよ」とお伝えすると、娘さんは涙を流して中止を受け入れ、翌朝、静かに旅立たれました。一週間後、挨拶に来られた娘さんの表情は、とても晴れやかでした。
【終わりに】
イノチを左右する選択を、本人に代わって家族が決めるのは、本当に重いことです。だからこそ私たちは、すべての選択肢を示し、後悔の少ない決断ができるよう、とことん寄り添いたい。
そして、ご家族が重荷を背負いながら出した結論には、「それが正解だったんだ」と、後押しをして差し上げたいのです。
そのヒントを、たくさんのパターンとしてまとめたのが『たんぽぽ先生の在宅医療パターンブック』です。ぜひお手に取ってみてください。