著者:永井康徳
「たんぽぽ先生の在宅医療チャンネル」のチャンネル登録者がとうとう5,000人になりました。5,000人を記念して何をしようかなと考えたのですが、「未来を見据えた在宅医療」について、お話ししたいと思います。
2024年診療報酬改定は、介護保険と障害福祉サービス等の報酬とトリプル改定で、結構変わりましたよね。皆さんのところでは、報酬は増えましたか?それとも減りましたか?どちらかというと、減ったところが多いのではと思っています。
診療報酬が改定されると、毎回それに合わせて自分の方向性を変えるケースがすごく多いと思いますが、私はあまり診療報酬改定に左右されずに、方向性がぶれない方がいいと思うのです。
そんなことを言っても、診療報酬改定に従わないといけないのですが、それ以前に、患者さんや地域に必要な医療を実践していくということが大事です。それが実現できていれば、報酬は一時的に下がったり上がったりはあるかもしれませんが、最終的には、その方向に国も診療報酬を調整していくと思っています。
現に、私が在宅クリニックを開業した当時は、重度の患者をみればみるほど損をしていました。2週間に1回の頻度で、安定した患者さんをたくさん診るのが一番診療収入が高かったのです。在宅医療の管理料は、軽い患者さんも、毎週訪問したり毎日訪問したりする重度や看取りの患者さんも、同じ点数だったのです。
そんな時に厚生労働省の人たちが当院へ見学に来ました。普段患者さんの訪問とかもちろんしたことがない人たちが私たちと一緒に訪問して、「これが在宅医療なんですか」、「看取りというのはこういうものなんですか」と実際に体験されて、「先生、どうすれば自宅での看取りは推進できるんですか」と質問されました。
私はこう話しました。「今は病院でほとんどの人が看取られる社会なので、いろんな不安があるから、24時間対応がないとなかなか安心して看取りは行われません。24時間対応の診療所や訪問看護ステーションをしっかり評価するような報酬にしてください。そして、重度の人も、軽度の人も報酬は一緒ではなくて、重度の人をみれば様々な手間がかかるわけだから、報酬を手厚くしてください。自宅で看取った時には、看取りの加算みたいなものがつくとありがたいですね。」
私の発言の大抵のことが正しいと思ってくれたのでしょう、改定の際にほぼ報酬に盛り込まれました。このように、本当に必要なこと、患者さんに喜ばれたり、地域に求められることをしていれば、長い目で見れば必ず評価されていくので、未来にどうなるか、地域がどうなるかというプランも描きながら、毎日の活動を実践していってほしいと思っています。
今後は、在宅医療機関としてどうやって患者さんから選ばれるかということを考えていかなければならないと思っています。ポイントは、患者さんがここでみてほしいと思ってもらえるようなクリニックになる、そして紹介してくれる病院やケアマネジャーなどが、ここに紹介したいと思ってもらえるようなクリニックになるということです。そして、そのニーズが増えたときに、それに対応できる人材をしっかり確保していくことが大切だと思います。この両方が揃わないと、これから地域に継続して在宅療養を行っていくことはできないと思うのです。
患者を集める方法として、まず一つ目、「紹介のしやすさ」についてお話しします。
「自転車で訪問できる範囲しか行きません」とか「ここの小学校区域じゃないとダメです」とか、そんなことは病院からしてみれば関係ないわけです。「市内だったらどこでも行きますよ」という方が紹介しやすいですよね。もちろん認知されないとなかなか難しいですし、例えば、小児、がんの末期、神経難病、認知症など、その地域に必要とされるニーズに応えていかないと求められないと思います。そして、やはり一人一人の患者を見て、最期にここでみてもらってよかったと思ってもらえるような医療を提供しないといけませんし、そういう在宅医療を提供できれば、看取ったときにご家族が言ってくれた言葉、最期まで食べる支援ややりたいことの支援ができたなど、紹介者にフィードバックすることが大切です。このフィードバックにより、患者家族に喜んでもらったのであれば、また紹介しようということになると思います。一人一人から病院ともネットワークを作り、よいケアマネとか、よい訪問看護ステーションとか、ネットワークをきちんと広げていくと、自分たちのチームが出来上がっていくと思います。そして、在宅医療をする医療機関も多くなってきたので、他の医療機関にない特徴、例えば、神経難病が得意、人工呼吸器の管理に長けている、有床診療所がある、食支援に力を入れている、やりたいことを支援する等の特徴により、患者さんに満足してもらうのも大切だと思います。じっとしていても患者さんは紹介されてこないので、いろいろなことを積極的に行っていくことが大切です。
そして、二つ目、その紹介されてくるニーズに対応するためには、「人材、マンパワー」が必要です。それでは、どうしたらマンパワーが集められるのか。人材、マウンパワーを集めるためは、私は三つに集約されると思います。
一つ目は良い活動をする。良い活動をしていないと、あそこはダメよと言われます。ですから、良い活動をして、それをしっかり情報発信する。講演会や勉強会、私が今発信しているYouTube、書籍の出版、ホームページなどです。ホームページはただ情報を出すだけではダメだと思います。どんな思いで、どんな活動をしているかということが分からないと、意味がないと思うのです。最近は入職希望者や、患者さんやご家族も、大抵ホームページを見ています。ですから、どんな活動をしているか、どんな理念があるのかということをきちんと発信できないといけないと思います。
二つ目は、疲弊しないシステムです。在宅医療は24時間対応が必須なので、職員が疲弊していてはなかなか思いも実現できないと思います。複数体制で疲弊しない体制やシステムが非常に大切になります。
そして三つ目は教育研修機能。当院では、看護学生や研修医が年間30人くらい来ますし、在宅専門医養成のプログラムもあり、開業支援して全国で開業した先生もたくさんいます。このように、ここに来ればこき使われるのではなくて、学んで成長できるという組織にすることが大事だと思います。
この三つのポイントは、どれか一つやったのではダメですね。全部セットで進めていくと、人が集まる組織になると思っています。患者を集めて、たくさんの患者さんをみるためには、人材も集めないといけない。この二つをセットで行っていくことが大事になると思います。
将来の在宅医療を考えるときに、診療報酬改定の面でも、軽い患者さんを頻回に訪問する訪問診療は厳しくなっていますね。重度の患者、看取りの患者、困難事例の患者をみていくことが大事だと思います。やはり地域の人たちもそういう姿勢を見ていると思うのです。食支援関係では、管理栄養士が在支病では配置が義務付けられていますし、在支診でも努力義務になっています。食べる取り組みは質を高めるために非常に重要で、評価されてきていますので、あえて取り組んでいくということが大事だと思います。
そのほか、心不全患者の在宅医療もニーズが広がっています。また、訪問看護ステーションはやはり大規模化を推奨しているようです。有床診療所についてもその重要性は国も理解していて、少しずつですけど点数も評価されてきています。自院で有床診療所を全ての医療機関が持つことは難しいかもしれないですが、地域の中で有床診療所や、病院との連携も考えていかないといけないでしょう。ICTの活用も今回も非常に評価されていますし、オンライン診療もこれからどんどん発展していくと思います。そして当院もやっていますが、へき地医療、医療の地域偏在への対応も、これから何らかの対応が求められるかなと思っています。反対に、今目をつけられているのは、ターミナル患者専門や精神科専門などの施設に、必要な訪問看護ではなく頻回の訪問看護をして、収入を上げているようなところです。今回指導も入りましたが、次回の改定では手がつけられるのではないかなと思っています。
報酬改定に左右されない在宅医療というのは、やはり患者が求める在宅医療は何なのかというのを一番に考えていくことが大切だと思います。医療従事者が施すことや儲けることが目的ではないので、儲けることが目的の医療機関はやはり淘汰されていくと思います。患者さんやご家族が何を求めているのか、地域が何を求めているのか、それを考えて実践していく。その取り組みは、必要とされていれば、国もそれを評価して報酬に結びついていくのではないかと思っています。何のために私たちは医療を行っているのか、何のために在宅医療を行っているのかということを常に考えながらいろんなことを実践していくと報酬もついてくるのではないでしょうか。日々の生活も非常に大切ですけれども、少し未来のことも見据えた上で、どのような戦略を取っていくかも考えていくといいかと思います。