たんぽぽコラム

フリートーク

著者:永井康徳

  

第5回 告知について


今日は告知についてお話しさせていただきたいと思います。
たんぽぽクリニックでは、毎月30人から40人の患者さんが紹介されてきます。そのうち約半分は癌末期の患者さんですが、癌末期の患者さんの中で、しっかり告知されている人は半分くらいだと思います。半分以上の人は十分告知されていないという印象があります。院内でも朝のミーティングで、「告知しなくていいのか」ということを常に話をしていきますし、告知する場合どういうふうに話をしていくかということも、みんなで議論していきます。

先日、80代後半の女性が、調子が悪くなって調べてみると、癌がお腹の中に広がっていて、肺や肝臓にも転移をしていました。ただ、本人の希望もあって詳しい検査はしなかったのですが、どこが原因かはっきりわからなくて、原発不明癌という状態だったのです。どこの癌かわからないけれど、いろいろ転移しているということで、検査結果も病院の先生から曖昧のまま、これからその原因を突き止めたとしても、手術したり抗がん剤したりするわけではないので、ご家族も自宅で最期まで看てあげたいということで、当院に紹介がありました。
最初にご自宅へお伺いしたときに、ご家族から「病院でいろいろ検査したんですけど、本人が医師から説明してもらってないんです。だから、本人は、『私の体はどうなっているの。はっきり聞きたい』と言っています。」結構、本人は怒っていたんですね。「私の体のことを何も説明もしてくれなかった」と。私は「わかりました。じゃあ、私がお話ししましょう。本人が病状を聞きたいし、家族もそれを望んでいるんだから、はっきり言いましょう」と、ご本人とご家族の前で説明をしました。
「癌がお腹に広がっていて、肺とか肝臓にも転移しているんですよ。どこの癌か原因ははっきりしないんです。」そして、もう一度検査とか、積極的な治療をするのかどうかということもお話ししましたが、本人は「もうそれはいい」と言われました。いわゆる予後、どれくらい持つかという点についても、「1ヶ月はちょっと難しいかもしれません」というお話もはっきりしました。そして、「楽にできることはとことんやっていきますから、いろいろやりたいこととか食べたいものとか言ってもらって、それを実現していきましょう」とお話をしました。そしたら本人は「分かりました。これでもうはっきりしたので、私も自宅で最期まで家族みんなで迎えられるようにしていきたいので、お手伝いお願いします」とはっきり言われました。
本当にしっかりされた方でした。結局、楽にする緩和ケアをしっかりしていって、食べたいものを食べたり、いろいろ交友関係も広かったので、ちゃんと死に向き合ってたくさんの方が来られてお別れをして、穏やかに自宅で最期を迎えられました。

こういうふうにしっかり告知して、いい方向にいく人もいます。
しかし、本人がかわいそうだから、告知しないでくれという人はすごく多いんです。でも私たちが看取りをたくさん経験してきて思うのは、告知しなかったときに、本人はさきほどの女性のように、「はっきり言ってくれない」とか「嘘をついている」というふうに周りに壁を作って亡くなっていく方も多くいらっしゃいます。本当のことを話さなくて亡くなった後に、ご家族の中には「本当は本人はどう思っていたんだろう」「やっぱり病院に行きたかったんだろうか」「家でも点滴しないほうがよかったんだろうか」「ちゃんと残された家族に伝えたいことは伝えられていたのだろうか」「やりたいことは実現できたんだろうか」と思う人がすごく多いんですよね。
しっかり告知すれば、家族に伝えたいことを伝えたり、こんなやりたいことがあると言うことができるのですが、やはり死に向き合わないとやりたいこととか伝えたいことができない可能性が高いのです。中にはどんな状態でも告知してほしくないという人もいますけど、ごくわずかだと思うのです。本当に告知しないでいいのかということを、家族はほとんど初めて経験する人たちなので、経験がある医療者が教えてあげる必要があると思います。
本人にとって本当に最善の選択は何なのか、告知することも確かに勇気はいるんですが、告知しなかったときのデメリットをしっかりお話しして、しっかり向き合っていく。医療者が向き合わないと家族も向き合えるわけがないですから。しっかり告知をできていないケースが非常に多いので、病院の医療者も死に向き合って、医療者も告知についての説明や、どういうふうに告知するのかということを、しっかり学んでいかないといけないなと思っています。私たちもしっかり死に向き合いながら、家族とご本人と亡くなっても納得できる選択ができるようにしっかり向き合って話をしていかないといけないなと思いました。

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