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最新看取り事情


第11章 「最期まで食べる取り組み」に欠かせない2つのこと

■胃ろうは延命だからイヤ! では経鼻チューブは?

 最期まで食べる取り組みで'欠かせない'と私が考えるポイントが2つあります。

①ご家族も医療従事者も患者さんの死に向き合うこと
②口から食べる取り組みをするなら、胃ろうや経鼻チューブからの注入量を見直すこと

 最近、このことを再確認させてくれた患者さんがいました。河村泰三さん(仮名)87歳です。泰三さんが当院に転院してきたときは、栄養を経鼻胃管チューブ(以下、経鼻チューブ)から取っていました。脳梗塞後遺症や廃用症候群、認知症などを併発しながらも、泰三さんは奥さんに介護をされて自宅で暮らしていましたが、誤嚥性肺炎を繰り返し、今回の入院で絶食となって経鼻チューブで栄養補給をすることになったのです。ただ、泰三さん自身は嫌だったのか、前院ではチューブを自分で引き抜いてしまうことがあり、防止のためのミトンを両手につけていました。泰三さんは食べることが大好きだったといいます。私が泰三さんの病室に伺ったときにも「メシが食べたい!早く持ってきてくれ!」と大きくハッキリとした声で言われていました。

 当院に転院した翌日、経鼻チューブから栄養剤を注入されたり、痰を吸引器で吸引をされる泰三さんのそばにいた奥さんが不安そうに看護師に尋ねました。「家に帰っても、栄養の注入に看護師さんが来てもらえるのですか?」と。もちろん訪問看護は可能ですが、日々の栄養剤の注入は家族がすることを説明しながら、「昨日、リハビリで少しですが水が飲めましたよ」と看護師が伝えると、奥様は喜ばれて「また食べられるようになればいいのに。お刺身が好きだったんです」と言ったそうです。
入院3日目に、ご家族やケアマネジャーとともに泰三さんの今後について話し合いました。泰三さんをずっと介護してきた奥さんは、できれば夫を自宅に連れて帰って、自宅で過ごさせてあげたいと胸の内を話しました。一方で遠方に暮らす3人の娘さんは、お母さんの介護負担を考えると施設入所がいいのではと言い、ケアマネジャーは、平日はデイサービスを週末はショートステイなどを利用して、奥様の介護負担をできるだけ減らすことを提案しました。しかし、経鼻チューブでは、利用できるデイサービスやショートステイは限られてきます。
そこで私はご家族に、現状で泰三さんが選べるすべての選択肢を説明しました。それはこの3つです。

1.泰三さんは食べる意欲が高いので、少しでも口から食べられたらと思っている。そのため、栄養剤の注入を少しずつ減らして空腹感を感じてもらい、経鼻チューブをつけたまま口からの食事摂取を進める。

2.思い切って胃ろうにする。経鼻チューブも胃ろうも、経管栄養法ということでは同じ。チューブが喉を通っている分、食事摂取が難しい。さらに経鼻チューブでは在宅移行後、対応してくれる施設も少ない。

3.経鼻チューブを抜いて口から食べられるだけ食べる。そして、食べられなくなったら自然に看ていく。

 ご家族は、胃ろうも経鼻チューブも経管栄養法を行なうということでは同じなのだと知って、とても驚いていました。泰三さんのご兄弟が胃ろうにして、本人が何もわからないまま何年も生きていたという姿を目の当たりにして、泰三さん自身は「胃ろうは絶対にイヤだ」と言い続けていたのです。娘さんたちも「胃ろうは延命と思っていたから、前の病院で胃ろうを勧められた時に拒否して、経鼻チューブを選択したのに、これなら胃ろうの方がいいのかもしれない」とおっしゃっていました。

 「胃ろうは延命だから嫌だけれども、経鼻チューブならいい」。経管栄養法による延命ということではどちらも同じで、医療従事者から見れば矛盾を感じる選択が行われるのは、医療従事者自身が患者の死に向き合っていないから起こるのだと私自身は考えています。私は、ご家族が泰三さんの死に向き合っていただくために、「経鼻チューブを抜いて口から食べられるだけ食べていても、いずれは食べられなくなるときがきます。1日に500cc以上の食物や水分が摂取できていれば1ヶ月以上生きられますが、それ以下の摂取量であれば1ヶ月は生きられません。食べられなくなったら1週間くらいでお亡くなりになります」というところまでお話しして、自宅で看取るためのガイドブック『家で看取ると云うこと』をご家族に読んでいただくようお渡ししました。そして、ご家族でどうするか話しあって、その結果を後日、伝えていただくことにしました。

 これがポイント①になるのですが、経鼻チューブを抜いて口から食べる取り組みを始める際には、ご家族が(患者本人は認知症等で理解が困難な場合があるため)死に向き合う必要があります。最低限の医療で患者を自然に看ていくということに納得していなければ、口から食べる取り組みは進められないのです。


■口から食べることがもたらした変化 

 それから1週間ほどして、長女さんより「家族や親戚と胃ろうにするのか、経鼻チューブにするのか、自然に看るのか話し合いました。結局、胃ろうはせず、経鼻チューブも抜き、自然に看ていこうということでみんなの意見が一致しました。父は胃ろうは絶対に嫌だと言っていたし、食べる意欲も強いから・・・これが後悔しない、一番の方法だと思います」とお話がありました。
 そのお話があった日の夕方、夕食の注入を終えた後、泰三さんのチューブを抜きました。翌朝、泰三さんは、少しムセつつも朝からミキサー食のお粥を食べ始めました。実は泰三さんが入院された日から、口から食べるための訓練を少しずつ行っていたのです。前院では、毎食栄養剤を300mlが注入されていたのですが、これだけ毎回注入されていては、食べる意欲があっても実際に食べたいとは思いません。そのため入院日より、昼の注入はやめて朝200ml、夕400mlに変更。昼は言語聴覚士が嚥下の具合を確認しながら、少しずつミキサー食を食べる訓練をしていました。注入を減らすことで、痰が減り、痰の吸引回数も減りました。

 これがポイント②です。胃ろうや経鼻チューブをしている人に口から食べる訓練を始めようとするときに注入量を減らさなければ、患者は空腹を感じません。空腹を感じて初めて、口から食べようと思うものなのです。
泰三さんに何が食べたいですか?と聞いたところ「刺身が食べたい!」と即答されました。そこでムースの刺身を食べていただき、美味しかったですか?と聞くと「おいしいけど、ムースやけんな(ムースだからな)」と。なんと会話が成立したのです。口から食べ始めた泰三さんには驚くような変化が起こっていました。ご家族も「話しかけても以前はトンチンカンな答えだったのに、今はしっかりと会話が成立するようになった」と驚かれていました。変化はそれだけでなく、寝たきりだった泰三さんは椅子に座り、自分で箸を持って食事をされるようになったのです。

 泰三さんは当院を退院し、今は施設で暮らしています。施設でも食欲は旺盛で、今も座ってご自身で箸を使って食べています。「ま、自分で食べるのもいいけど、食べさせてもらう方が楽やな」と軽口をいうまでになっています。
お元気で過ごされている泰三さんですが、主治医と奥さんの間では、泰三さんを今後、どこでどう看取るのかという話し合いもされています。食べることは生きること、しかし生は、死という終わりがあるからこそ輝いているのです。

(株式会社日本医療企画発行
ヘルスケアレストラン 2017年11月号掲載)